鹿児島県高隈山系はブナの南限地として知られている。このブナの南限地を保全方法を考えるために本地域に分布するブナの生育と更新の現状を調べ、次のことがわかった。 1) 本地域の低木層より低いブナでは他地域のブナと同様の樹形を示したが、低木層より高い個体について胸高直径や樹冠半径のわりに樹高が特異的に低い樹形を呈していた。こうした垂直方向と水平方向の成長のトレードオフ関係が変化した原因として、高木性樹種の優占度が低かったことが間接的に関連していると考えられた。このように高隈ブナは樹高成長が著しく抑制されているものの、枯損や肥大成長の衰退は確認できなかった。 2) ブナの成木密度や胸高断面積合計は他の太平洋型ブナ林と同様に低く、胸高直径10cm未満の後継樹の林冠木に対する割合は0.5未満で後継樹が不足していた。また高隈ブナ林はギャップ率が50%以上と大きかったが、スズタケの被度に関係なく樹高2m未満の稚樹が全く確認できなかった。 3) 1998年の堅果生産量は大きかったが、80%近い高いしいな率のため健全堅果はきわめて少なかった。越冬堅果の生存率は低くなかったが、堅果豊作年翌年秋の当年性実生稚樹は全くなかった。更新不良の主要原因はしいな率の高さにあると考えた。 4) このように高隈ブナは更新不良の状態にあり、本地域のブナ林は他の高木性樹種やスズタケと低木種の群落に変化する可能性が示唆された。この可能性を検証するため長期間の継続的観察が必要である。
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