20世紀末の現在、グーテンベルグの活版印刷術の発明以来550年続いた紙とインクによる活字文化の前に電子メディアが出現し、多層的なメディア状況にあり、次世代における紙メディアの行方は不透明である。 本研究ではこのような時代状況の中でなぜ紙メディアに対して人間は親和性を感じてきたか、また情報メディアとしての紙の将来は電子メディアとの関係でどのように推移して行くかという問題を予測する目的で、メディアに関する心理学であるメディアサイコロジーという手法を用いて紙の物理量と心理量はどのような関係にあるかを解析し、また紙の人間との親和性と脳内における情報処理を認知科学のモデルにより解析し、紙メディアの特性を情報受容者である人間を中心に据えて多面的に明らかにしてきた。 具体的な実験としては視覚・触覚に関係した紙の表面特性と画像再現性の関係をオフセット印刷およびインクジェット・レーザープリンタによるハードコピーにより解析し、画像の色彩再現性に影響する紙の側の要因を明らかにしてきた。 これらのデータから情報メディアとしての紙メディアと電子メディアを比較するための認知科学モデルを構築し、情報伝達における情報受信側の人間の脳内情報処理過程を定性的にモデル化した。またこのモデルを電子書籍コンソーシアムによるブックオンデマンド実証実験の解析に適用した。 さらにメディア理論と認知科学モデルから紙の物性値と心理量を結びつける心理物理量を明らかにし、心理物理的モデルを提案し、また感性工学的手法により紙メディアに感性機能を付与するための条件を明らかにした。
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