研究概要 |
1.卵黄蛋白の卵巣の成熟と卵母細胞の成長にともなう増加,これと並行した卵巣内のRNA量の増加,In vivoによるエストラジオール-17β(E_2)投与,E_2と頭部・足部神経節抽出物を添加したIn vitro培養実験での卵黄蛋白量増加の結果から,卵黄蛋白の合成の場である卵巣で,E_2と頭部・足部神経節の熱耐性の分子量1万以下のトリプシン・キモトリプシン耐性の分子による促進的な調節が明らかになった。成長期の卵母細胞に認められたエストロゲン受容体(ER)様分子が,頭部・足部神経節による誘導などの作用を介して卵母細胞自身による自家合成に基づくE_2による卵黄蛋白合成促進の可能性が強く示唆された。 2.卵母細胞内での卵黄蛋白前駆体(ヴィテロゲニン)合成が強く示唆されたことから,成長期の卵巣のcDNAライブラリーからヴィテロゲニン遺伝子(Vtg)のクローニングを試みた。クローニングされたcDNA(cSYP-1,Accession No.AB055960)は鎖長1698bpの開始コドンを含むが終止コドンを含まない部分配列であった。ノザンブロット解析で全長は12〜13kbであったが,演繹したアミノ酸配列(N末端を含む561残基)の相同性と分子系統樹解析から明らかにヴィテロゲニン遺伝子であることを確認した。Vtgは卵成長にともなって発現量が増えるが,ヴィテロゲニン合成を停止しているはずの産卵期でも高い発現量を維持していた。成長期の卵巣組織に頭部・足部神経節の促進因子を添加してもVtg発現はヴィテロゲニンのような増加を見せなかった。 以上のことから,卵母細胞が分化すると,内因性のエストロゲンによって,卵母細胞内のエストロゲン受容体を介してヴィテロゲニン合成が進行し,修飾を受けながら卵黄蛋白としての蓄積が進む。その時,頭部・足部神経節からの因子が,ERに対し誘導といった何らかの促進的な作用を引き起こして,ヴィテロゲニンmRNA発現をさらに増大させる。と同時に,翻訳を促進させる様に働いているのではないかと推測される。十分な卵黄蛋白の蓄積を済ませた卵母細胞では,大量に残された寿命の長いヴィテロゲニンmRNAからの蛋白への翻訳が停止され,産卵するまでかなりの量が残るものと考えられた。
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