我が国の内湾域は近年、過密養殖のみなず、海域周辺の開発等によって、漁場環境の劣化を招いている。こうした状況のなかで、内湾環境の保全に向けた養殖場の環境管理や陸上環境の保全の重要性が認識されるようになってきた。養殖生物と自然群集との間の相互関係を評価することや、陸上環境との接点としての河川水の流入にともなう植物プランクトンの動態を把握することは、内湾の自然生態系を維持しながら、内湾域を養殖漁場として高度に利用していく上で、極めて重要な課題である。 このような背景をふまえ、三重県南東部の志摩半島に位置する内湾でかつ典型的な養殖漁場である英虞湾および的矢湾をフィールドとして、それぞれの養殖漁場の特性を生かして本研究を実施した。 英虞湾においては、自然プランクトン群集の構造を海洋環境や養殖生物と関連において明らかにすることに努めるとともに、有用魚介類の生産に大きな影響をおよぼしていることが指摘されてきている微生物食物連鎖を介した食物連鎖構造の解析を行った。その結果、英虞湾ではほぼ周年にわたって一次生産者としてピコおよびナノサイズの植物プランクトンが卓越することや、生産された炭素の大部分は微生物食物連鎖に取り込まれ、微小動物プランクトンを介して採食食物連鎖を構成するメソ動物プランクトンの現存量に影響を与えている可能性を示唆することができた。 一方、的矢湾は、いくつかの流入河川をもち、河川水の影響を大きく受ける養殖漁場である。的矢湾においては低次生産環境の季節変動を明らかにし、養殖漁場としての環境特性と、河川水の流入が一次生産に及ぼす影響について知見を得ることを試みた。その結果、窒素やケイ素の負荷源は主に河川であるのに対して、リンは湾底泥起源あることが明らかとなった。また、的矢湾の植物プランクトンのブルームは、流入河川による窒素の負荷によって起こることを明らかにすることができた。
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