硬骨魚類の補体系の際立った特徴の一つとして、第3成分C3、第2成分C2、B因子遺伝子が複数存在することがあげられる。しかしながら、これらの補体成分の多様性が魚類の生体防御に果たす役割についてはまったく不明なままである。本研究では、コイC3、C2、B因子の一次構造を基に合成したペプチドを免疫原として抗ペプチド抗体を作成し、この抗体を用いてC3、C2の機能をタンパク質レベルで解析することを目的とした。まず、既に決定したコイC3、C2、B因子のアミノ酸配列の二次構造を解析し、ループ構造をとると予測される部位のペプチドを合成した。これをキャリアタンパク質と結合させ、ウサギに免疫注射して抗血清を作成した。得られた抗血清をアフィニティー精製し、以後の実験に用いた。抗コイC2/B因子抗体は、正常コイ血清を用いたウエスタンブロッティングにおいて、90kDaの一本のバンドを検出した。ザイモサン活性化コイ血清を用いた場合は、66kDaのバンドにシフトした。これらの結果は、一次構造から推定されるコイC2/B因子の分子量にほぼ一致していた。また、活性化に伴うC2とB因子の断片化が哺乳類と同様に進行することが明らかとなった。一方、コイで同定された5種のC3アイソフォームのそれぞれを特異的に認識する抗ペプチド抗体の作成も試みたが、これは成功しなかった。代わりに、すべてのアイソフォームを等しく認識できるポリクローナル抗体と、結合能に差があるモノクローナル抗体を作成して解析を進めた。その結果、コイC3アイソフォームには、標的物質への結合特異性に差があること、1種のC3は全くC3溶血活性を示さないことが判明した。以上の結果から、硬骨魚類の複数のC3、C2、B因子は、機能的にも多様化していることが示唆された。
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