研究概要 |
近年、水生動物における遊離D型アミノ酸の分布が調べられ、軟体動物の二枚貝や巻貝、節足動物のエビ・カニ類、棘皮動物のウニ類に多量のD-アラニン(Ala)の存在が認められた。本研究は遊離D-Alaの蓄積機構を明らかにしようとするもので、これまでに以下の結果を得た。 1. D-AlaとL-Alaの相互変換を触媒するアラニンラセマーゼ(ARase)の測定法を検討した結果、それぞれの試料から調製した組酵素液に、トリス-HC1緩衝液(pH7〜9)、リン酸緩衝液(pH6〜7)のいずれかを加えた後、基質としてD-AlaあるいはL-Alaを加えて37℃で反応させ、反応停止後反応生成物のL-AlaあるいはD-Alaと未反応のD-AlあるいはL-AlaをHPLCを用いて分離定量することにより可能であることがわかった。 2. 軟体動物 ヤマトシジミのARaseはD-Alaを基質としたときに強い活性を示し、pH8.5付近で最適pHとなったが、L-Alaを基質とした場合、活性を示すものの弱かった。中国産シジミ(種不明)でもD-Alaを基質としたときに活性は比較的強かったが、pH依存性は明瞭ではなかった。ミルクイはAla含量が極めて高く、水管組織では100g中10000mg近くに達し、その80%近くがD型で占められているにもかかわらず、ARase活性は弱く測定はできなかった。 3. 節足動物 ケガニのARaseはD,L-Alaのいずれを基質にしても二枚貝のシジミ類やミルクイと比較して顕著に強かったが、二枚貝とは逆にL→D方向でより強い活性を示した。またこの方向におけるpH依存性はpH6〜9の範囲でpHが高くなるにつれて相対活性が強くなり、この間で最適pHを見出すことはできなかった。 4. 棘皮動物 キタムラサキウニ生殖腺のARase活性はD,L-Alaのいずれを基質にしても弱く、L-Alaを基質としたときにpH8.5付近でやや強い活性を示す傾向がみられた程度である。また、ウニのARaseは極めて不安定であることから今後測定法を改良する必要があると考えている。
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