軟体動物の腹足類(巻貝類)では、原始腹足目・および中腹足目に属する種に多量の遊離D-アラニン(Ala)が蓄積する。一方、新腹足目に属する種にはD-Alaはほとんど蓄積しない。この点に着目し、腹足類におけるアラニンラセマーゼ(ARase)活性の有無を調べた。結果を以下にまとめる。 1.原始腹足目に属するサラサバテイラ(中腸腺、生殖腺、足筋)、フクトコブシ(中腸腺、足筋)およびサザエ(中腸腺)のいずれの組織にもD→LおよびL→Dの両方向でARase活性が認められた。サラサバテイラでは、生殖腺が21.3〜26.3μmol/g・h(組織1gあたり1時間における反応生成物量)と最も高く、次いで中腸腺の11.6〜15.4μmol/g・hであり、足筋は0.4〜0.5μmol/h・hとかなり低かった。一方、フクトコブシとサザエの中腸腺は1.1〜2.6μmol/g・hとサラサバテイラ中腸腺より低かったが、フクトコブシ足筋は0.4〜0.5μmol/g・hとほぼ同程度であった。 2.中腹足目のカコボラ(中腸腺、精巣、卵巣、足筋)も調べた全組織に両方向で活性が認められた。 3.新腹足類のアカニシの中腸腺、生殖腺、足筋のいずれにも両方向でARase活性は認められなかった。これらの組織にはD-Alaはほとんど検出されなかった。 4.サラサバテイラの中腸腺はD→L、L→Dのいずれの方向でも反応後1時間で平衡に達し、基質の50%が変化した。また、サザエ中腸腺は反応後5時間経過しても平衡に達しなかった。 5.ARase活性が認められた種の中腸腺はL→D方向の活性が高く、筋肉はD→L方向で高い傾向が認められた。 以上の結果からARase活性は、D→Alaが検出された原始腹足目および中腹足目に属する種に認められ、D-Alaの全Alaに対する割合が高い組織で高い傾向にあった。
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