申請者はこれまでに軟体動物の巻貝の諸組織にアラニンラセマーゼ(Arase)が存在し、いずれの動物でもD→LとL→Dの両方向に活性を示すことを明らかにした。本年度は遊離のD-アラニン(Ala)が蓄積されない頭足類(イカ・タコ類)に注目し、それらのARase活性の有無を調べることとした。 1.スルメイカ(肝臓、卵巣、精巣、外套筋)およびマダコ(肝臓、卵巣、胃、鰓、腎臓、外套筋)の全組織にARase活性が認められたが、D→L方向の活性のみが示され、L→D方向の活性は観察されなかった。 2.スルメイカでは肝臓のArase活性が最も強く、2時間の反応で2.37μmol/g(組織1g当たりの反応生成物量)、4時間の反応で4.06μmol/gであった。精巣、卵巣および外套筋にも活性が認められたが、精巣は肝臓の1/2以下、卵巣は4時間の反応で活性が認められる程度であり、外套筋は数値で示すことはできなかった。 3.マダコでは、腎臓の活性が最も強く、2時間で2.10μmol/g、4時間で3.74μmol/gとスルメイカ肝臓とほぼ同レベルであったが、肝臓はスルメイカより低く、2時間で0.95μmol/g、4時間で1.48μmol/gとなった。胃(内容物は除去)および外套筋の活性は肝臓より弱く、2時間の反応でそれぞれ0.72および0.39μmol/g、4時間の反応でそれぞれ0.94および0.54μmol/gとなった。卵巣および鰓は4時間の反応でのみ活性が認められたが、それぞれ0.84および0.76μmol/gとなり、外套筋よりやや強かった。 以上の結果からD-Alaが存在しないイカ・タコ類にもARase活性が認められ、その活性はD→L方向にのみ活性が示される得意なARaseであることがわかった。このことから、これらの動物種ではこの酵素作用により体内に取り込まれたD-AlaをL-Alaに変換して利用していることが考えられる。
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