本年度の研究課題のうち、(1)人民公社の生産と経営の崩壊のメカニズムの分析、(2)農民の抵抗形態としての「包産到戸」と国家による抑圧=農民の生存要求と「ヤミ」行為の発生、国家の農村支配構造と農村の「階層」関係、農村政治・社会構造の分析、(3)農村政策の決定・転換メカニズム=カリスマ的「人治」体系、位階制・権力内部構造と情報伝達・意思決定メカニズムの分析、を行った。 (1)では経済的・歴史的前提としての低位商品化率、地域自給的性格、政治的前提としての「備戦」体制とアウタルキー体制の構築の下での傾斜的生産構造、流通・価格統制が地域内再生産構造を歪曲し、農民の集団生産への積極性を喪失させ、集団経済を空洞化させると共に自留地経営、ヤミ行為などの農民的対応の横行とその中から「包産到戸」が出現してきた農村の経済・社会的背景を明らかにした。(2)農民の下からの抵抗としての「包産到戸」が安徽省の鳳陽県の農村からどのような過程を経て普及し、党=国家によって公認されていったのかを跡づけると共に、基層幹部や中央や地方の権力の関わり方、情報操作のあり方、意思決定の仕方の分析を通じて前期的官僚主義と位階制的性格を明らかにした。(3)では1980年代初期の党の農村政策の転換がどのように地方政府に伝達されていくのか、地方政府がどのように受け入れていくのかを通じて意思決定と伝達メカニズムを明らかにし、また毛沢東型社会主義の典型であった山西省の「大 人民公社」がどのように転換するのかを分析し、権力構造の変化と中央と地方における変化への対応の違いの中で位階制的官僚体制の構造転換の有無を検討した。 全体として毛沢東主義の農村政策では人民公社は都市の「単位制」社会と対応する「共同社会」であり、軍事化・強国化のための蓄積源でもあり、「人民戦争」の「備戦」のための単位でもあった。人民公社とは農村収奪と農民の平等・貧困の体制であり、転換は不可避であったが、転換の形態である「包産到戸」はまだ「小農」範疇成立以前的性格を持つと考えられる。 今年度の研究と併せて発表する予定である。
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