中国農村人民公社の展開過程を系統的に分析することによって以下の知見が得られた。 (1)人民公社体制とは毛沢東理論に基づく「備戦体制」と「社会主義から共産主義への移行」を結合した「戦時共産主義体制」であり、「自力更正、刻苦奮闘」による「まとまった地域経済圏」構想は経済理論としても成り立たないものであった。私は農村人民公社の組織編成、管理体制、再生産構造の分析を通じてその破綻の必然性を明らかにした。 (2)人民公社体制が崩壊し、農業は家族単位の経営請負制へ、「社隊企業」は「郷鎮企業」へと転換するが、そこでの中国的特徴は地域(「社区」)が土地や企業資産の集団所有主体となり、個人や私人がそれらの請負経営主体に転嫁し、それと同時に地域は集団資産を基礎にした地域社会の経営=運営主体となったことである。それ故に共同体的、官僚主義的規制力は依然として大きく、個人の集団からの自立は制限され、従って所有と経営は未分離で、経営体が純化しにくい。 (3)家族単位の経営請負制は過渡的曖昧性を持ち、経営権が自律化しにくく、土地経営が安定しにくい。そこで土地土地利用権の株式化が打ち出されたが、土地利用権の流通の地域的範囲をめぐって当該地域の内と外との関係を如何にするかが決定的条件になっている。 (4)郷鎮企業での株式合作制での株の流通範囲をめぐって同様な問題が存在する。 (5)人民公社の解体により「政社分離」が行われ、生産大隊レベルでは村民の自治組織としての村民委員会が設立され、住民自治の確立が謳われているが、土地や企業資産の地域集団所有、地域に負担を押しつけた行財政の前近代的あり方によって、住民自治は封鎖的共同体的自治であり、地方自治に発展する芽を押さえられている。
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