研究概要 |
本研究の目的は,農山村地域の振興策として近年期待が高まっているグリーンツーリズムの効果と可能性を明らかにすることである。我が国におけるグリーンツーリズムは、政策面からは、不況下での地域開発政策の転換のなかで、リゾート開発破綻後の新たな「目玉」が模索されていたこと、当時のウルグアイラウンド体制下での農政の転換のなかで、農外収入による農家・農村の維持が模索されていたこと、また、観光レクリエーションの動向においても、より自然に親しめる形態で、費用の安い観光レクを求める傾向が強くなったいたことなどから、1990年代の半ば以降、一気に農山村における地域振興施策の主流となり、各地で多くの試みがなされることになった。 本研究では,活発にグリーンツーリズムに取り組む岩手県湯田町,遠野市,北海道黒松内町,美瑛町,および群馬県新治村を対象に詳細な事例分析を行った。その結果,(1)グリーンツーリズム施設の収益性は高くないが,グリーンツーリズムに関わった個人の小遣い稼ぎ的な効果が意外に大きいこと,(2)地域内外の人的ネットワークの形成を通じて地域の企画力や実践力を高める効果があること,(3)グリーンツーリズムに関わった関係者に自分たちの活動への自信,地域への愛着や誇りが生まれていること,(4)地域の自然的文化的環境の見直しと修復に結びつくこと,(5)その一方で,来訪客の増加は一般観光地化をもたらし,グリーンツーリズムの長所を損ないかねない面も生じていること,が明らかになった。以上より,我が国のグリーンツーリズムは,その方向を誤らなければ,有形無形の社会資本形成(環境保全,施設整備,人的ネットワーク,住民参加・合意形成)に大きく寄与し,農山村地域の振興策として大きな可能性を有していることがわかった。
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