研究概要 |
研究初年度にあたる平成10年には,寡雨地帯である瀬戸内地方に位置する諸流域および乾季・雨季を伴う国外流域での観測データに基づいて,流域蒸発散量の実態を明らかにするとともに,植物を用いたポット実験により土壌水分が蒸発散に与える影響を検討した。 まず,国内外における流域での降水量・流出量・可能蒸発量のデータを用い、水収支法によって年流域蒸発散特性を検討した。その結果、年蒸発散比(実蒸発散量/可能蒸発量)は年降水量の大小に依存し,我が国のように比較的湿潤な地域にあっても年降水量1,800mm程度から減少し始め,年降水量1,000mm程度では0.5〜0.6となること,さらに,乾季・雨季を伴う中米半乾燥地帯の流域での蒸発散比もほぼ同じような傾向を示すことが明らかにされた。また,植生が疎な場合には,密な場合に比べてその減少傾向が著しく,流域の乾燥が蒸発散に与える影響をグローバルに把握することができた。 一方、このような特性のメカニズムを明らかにするため,植物を用いたポット実験を行い,土壌水分と蒸発散の関係を検討した。その結果,蒸発散は可能蒸発強度と土壌水分の両者に依存し,同じ土壌水分状態であっても可能蒸発強度が大きいと蒸散は抑制されること,また,蒸散が減退を開始し始める土壌水分範囲はpF2.5〜3.0にあるのに対して,土壌面蒸発の減退開始点はpF2.0付近であることが予測された。 さらに,蒸発散過程を含めた流域水循環についても検討を加え,特性の異なる流域の雨水保留特性を検討した。そして,降雨前の表層土湿条件を初期土湿不足量で表すことによって,流域の乾湿が雨水保留量に与える影響を定量的に評価した。
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