平成10年度においては、有明海奥部干潟域に設定した3箇所の試験区を中心にマクロベントスの種類や生息数あるいは干潟表面に形成されたマクロベントスの巣穴数や大きさなどを現地調査すると同時に、底泥中の温度や酸化還元電位(Eh)などの測定を定期的に行った。さらには各試験区域の底泥間隙水を定期的に採水し、そこに溶存する窒素などの無機栄養塩類の濃度測定を行った。そして、これらの収集された調査及び測定データを基に、試験区域内のマクトベントスの分布性や行動性、また底泥中の環境特性さらには底泥間隙水中の栄養塩類濃度の分布性を検討した。その結果、以下の点が明らかにされた。 1. 試験区域のマクロベントスは大きく表在性のものと、埋在性のものとに分類された。前者には甲殻類(アリアケガニ、ヤマトオサガニ、)、ハゼ類(トビハゼ、ムツゴロウ)及び巻貝類(ハイガイ)が、また後者には多毛類(イトゴカイ)が見られた。 2. 表在性の甲殻類とハゼ類は底泥表面に直径5mm以上、深さ20〜30cmの比較的大きな巣穴を、また埋在性の多毛類は底泥表面から深さ10cmの範囲に直径1mm前後の無数の巣穴を縦横に形成していた。 3. 埋在性マクロベントスの生息数の多い底泥表面から深さ約10cmまではEh>0すなわち底泥中は酸化状態、またそれ以深ではEh<0すなわちは還元状態であった。 4. 底泥間隙水中のNH_4^+の濃度はNO_2^-やNO_2^-の濃度の10数倍であった。また、NH_4^+の濃度は酸化状態の底泥表層より還元状態の下層において高かった。 5. マクロベントスによる巣穴形成(底質攪乱)と底泥環境及び物質循環過程との間の密接な関係が推察された。
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