研究概要 |
平成10,11年度に引き続き、有明海奥部干潟域(佐賀県佐賀郡東与賀町)に既設の3箇所の観測区域でマクロベントスの生物的撹乱の観測、調査及び底泥中の環境特性の測定、さらには底泥間隙水中の栄養塩類濃度の測定を定期的に実施した。そして、過去3年間に蓄積された観測及び測定データを基に、生物的撹乱の底泥環境に及ぼす影響や底泥環境と底泥中微生物の代謝過程、さらにはその栄養塩類濃度分布に及ぼす影響などについて検討、考察した。その結果、以下の点が明らかにされた。 1)春季から秋季の干潮時、干出した干潟表面には甲殻類、ハゼ類、多毛類などマクロベントスの巣穴が多数存在した。これらの巣穴径の約90%は20mm以上であった。また、巣穴の分布は統計分類上、一様分布に属した。さらに、底泥中のマクロベントスの95%以上は、イトゴカイによって占められた。そして、イトゴカイは底泥表面から深さ約10cmまでに集中的に分布し、それ以深では急減した。 2)干潮時において、底泥中の最も重要な環境的因子であるEhは、底泥中のマクロベントスの分布数に応じた分布性を呈した。すなわち、生息数の集中する深さ10cmまではEh≫0、逆に10cm以下ではEh<0となった。このことより、マクロベントスによる種々の生物的撹乱のうち、底泥環境を大きく改変する最も重要な生物的撹乱は巣穴形成であると判断された。 3)底泥中の栄養塩類、特に無機能窒素化合物は特徴的な濃度分布を呈した。すなわち、底泥中でEh≫0となる表面付近の酸化層では、NO_3^-が大部分を占め、またEh<0となる下層の還元層では、NH_4^+が深さに伴って急増した。これらの事実から、潮汐の干満とマクロベントスの生物的撹乱は、底泥中の酸化層と還元層との分布変化をもたらすことにより、好気性の硝化菌の代謝による硝化作用と通性嫌気性の脱膣菌の代謝による脱膣作用を機能的に左右しているものと推測された。
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