本研究は、飼料の栄養価を家畜の消化管組織における栄養素の正味吸収量(net flux)から評価する意義を明らかにすることを目的として実施したものであり、反芻胃内分解性の異なる魚粉(FM)と大豆粕(SBM)を対象に、それらの添加レベルの違いによるnet flux反応を検討した。供試家畜は門脈、腸管膜動静脈に慢性カテーテルを装着した子牛5頭(体重83-281kg)で、内2頭には十二指腸カニューレも装着した。給与飼料は粗濃比3:7(CP:10%)を基礎飼料とし、FMとSBMを等窒素(N)量で各3段階添加した。日飼料給与量は体重比2.7%で、12時間毎に等分給与した。十二指腸内容物は1日6回、血液は1時間毎12回採取した。内容物移行量と血流量は、指標物質としてそれぞれ酸化クロムとパラアミノ馬尿酸を用いて算出した。各栄養素の測定パラメーターについて回帰分析を行った結果、次の知見を得た。1.全側定値をプールすると十二指腸移行非蛋白態窒素量に対してα-アミノ酸態Nの吸収量は35.1%に過ぎなかった。2.飼料乾物中のN含量(g/kg)に対する乾物摂取量当たりのnet flux(g/kg)についてみると、アンモニア態N吸収はFM区:34.8%、SBM区:29.9%、消化管移行尿素態NはFM区:18.2%、SBM区:7.5%であり、両蛋白質源の反芻胃内分解度とは逆の反応を示した。3.乾物摂取量当たりのα-アミノ酸態Nは飼料N含量に対して、二次回帰式が適合し(R^2=0.99)、FM区:Y=-0.11X^2+4.99X-46.74、SBM区:Y=-0.15X^2+6.36X-59.6の式が得られ、α-アミノ酸態Nの吸収効率のピーク値及びその時の飼料N含量はFM区で高くなった。4.グルコース吸収量はSBM区で多くなる傾向にあった。 以上の知見は、従来の反芻家畜用飼料の蛋白質栄養価に関する概念を変えるものであり、飼料栄養価は栄養素のnet fluxから評価するのが望ましいことを示している。
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