本研究は、受精後の遺伝子発現開始の機構に、母性mRNAのpoly(A)鎖の伸長が関与しているという仮説を立て、それを明らかにすることを目的としたものである。 前年度に3'-deoxadenosine(3'-dA)によって受精後の遺伝子発現がほぼ完全に抑制されることを明らかにした。そこで本年度は、その3'-dAによる抑制がpoly(A)鎖の伸長を特異的に阻害した結果であることを確認する実験を行った。まず、遺伝子発現の阻害に用いた2mMの濃度で3'-dAを培養液に加え、受精後におけるcyclinAのpoly(A)鎖の伸長をノーザンブロッティングによって調べた。cyclinAは受精前後でそのmRNA量は変化しないがタンパク量が急激に変化することから、受精後にmRNAのpoly(A)鎖が伸長することが予想されていた。そして実際にノーザンブロッティングで調べたところ、確かにpoly(A)鎖が伸長していた。また、この受精後における伸長は、3'-dAによって抑制された。同時に3'-dAにより、cyclinAタンパク質の合成も阻害された。この阻害が非特異的な代謝阻害によるものではないことは、[35S]methionineの取り込みを調べて、3'-dAが総タンパク質合成量に影響を及ばさなかったことから明らかとなった。 これらの結果により、受精後の遺伝子発現は母性mRNAのpoly(A)鎖の伸長がその引き金になっていることが示唆された。
|