本研究は家畜卵子の成熟および過成熟(老化)の現象を分子レベルで把握し、さらにこれを人為的に制御することを目的とするものである。老化の現象自体は古くから知られているが、卵にどのような変化がおきているのかその分子機構はほとんど報告がない。この点を明らかにすることは遺伝子工学、発生工学など多分野にわたり近年多用される家畜の体外成熟卵子の卵操作時間の延長による卵の質低下の防止が期待できる。私は特に細胞周期制御因子に焦点を絞って解析を行っている。 本年度は、まず卵子の老化という現象を分子レベルで把握することから始めた。すなわち、現在までに卵子の老化に伴いMPF活性が低下することはわかっていたが、この分子レベルでの機構を調べたところ、(1)MPFの構成分子で触媒サブユニットであるp34^<cdc2>の含量はほとんど変化しないこと、(2)制御サブユニットのサイクリンB含量はむしろ増加すること、(3)従ってサイクリン結合型のp34^<cdc2>も増加すること、(4)しかしp34^<cdc2>の活性を抑制するリン酸化レベルが増加して不活性型のいわゆるprc-MPFが多量に存在しており、そのためMPF活性が次第に低下してくること、を明らかにした。この結果はサイクリンBが分解することにより起こる、卵子の活性化に伴うMPF活性低下と全く異なる機構によるものであり興味深い。 老化卵子を活性化処理すると約半数はfragmentationを起こすことは予備実験で確認している。私はこの現象がMPF活性の低下に起因していると考えており、この活性を高めればfragmentationを抑制でき、ひいては老化卵子の再生につながるものと期待している。次年度は本年度の結果をふまえて、老化卵子に大量に蓄えられているprc-MPFを活性化しMPF活性を高める方法を検討していく予定である。
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