本研究は、胚の発生およびインプリンティング遺伝子の発現の両面から、マウスの卵母細胞成長過程におけるゲノムインプリンティングの開始および完了時期について検討した。 発育途中にある卵母細胞は、成熟能力および発生支持能を持たない。そこで、非成長期および成長期卵母細胞の核を成長した卵母細胞へ核移植して、成熟能を獲得させた。ついで、それらの再構築卵を体外受精し、胚の発生を検討した。その結果、生後16日目のマウス卵巣内の2次卵母細胞(60μm)の核を用いて構築した成熟卵子は、体外受精後産子にまで発生することを明らかにした。しかし、それ以前の日齢のマウス卵巣内ゲノムは、胚盤胞への発生は支持できるが、着床後の発生支持能を全く持たないことが明らかとなった。また、成熟雌個体の卵巣内に存在する成長期卵母細胞を用いて検討し、幼弱期マウス卵母細胞の場合と同様に、2次卵母細胞(50μm)の核は個体発生支持能をすでに獲得していることを明らかにした。しかし、発育途中にある卵母細胞ゲノムを用いた場合、形態異常を伴い出生直後で死亡する例も確認された。一方、構築卵から得られた胎子におけるインプリント遺伝子の発現をRT-PCR法により、詳細に検討した。その結果、卵母細胞の成長過程でインプリント遺伝子の後天的な発現制御が行われ、父性発現遺伝子の母方アレルから発現抑制、および母性発現遺伝子の活性化が行われていることを突き止めた。さらに、この制御システムは卵母細胞の生長期間の全般にわたって、遺伝子個別に行われていることを示唆した。これらの成果から、卵母細胞の成長過程で行われる後天的遺伝子修飾機構がインプリント遺伝子の発現制御および胚の発生に決定的な役割を持つことが明らかとなった。
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