イヌ乳腺由来骨肉腫様細胞(OS細胞)は単層培養系ではMMP-2のみを発現する培養系細胞であるが、I型コラーゲンを用いたコラーゲン・ゲル内培養系ではMMP-9の発現が見られる。このOS細胞はコラーゲンとの接触によりMMP-9を発現するものと考えられたため、この細胞-マトリックス相関におけるMMP-9発現のシグナル伝達系について解析した。OS細胞を1x105/mlとなるように0.15% I型コラーゲン・ゲル内に包埋し、Genistein、RO31-7549、PD98059、LY294002などのkinase inhibitor、Cytochalasin Dおよびintegrinに対する抗体などの存在下、無血清培地中で一定期間培養を行った。この培養後の上清についてゼラチン・ザイモグラフィーを行い、MMP-9の発現変化を解析した。対照培養系では培養後1日目より、コラーゲン・ゲルはgel contractionを開始するとともに、MMP-9発現が観察された。一方、種々のinhibitor添加群ではGenistein、LY294002、Cytochalasin D、或いは、integrin α2およびα6/β1に対する抗体を添加することによりMMP-9の発現低下が観察された。この結果より、コラーゲン・ゲル内培養におけるMMP-9発現には、ある種類のintegrin、tyrosine kinase、phosphatidylinositol 3-kinase(PI3 kinase)およびactinの重合が関与していることが示されたが、MAP kinase、protein kinase Cとの関連は見られなかった。なお、抗integrin α2抗体添加系では明瞭なgel contractionを起こしたにも関わらずMMP-9発現が抑制されたことから、gel contractionはMMP-9発現に必須の現象ではないと考えられた。以上のことから、OS細胞はintegrin-FAN(focal adhesion kinase)系を介してコラーゲンを認識することにより、MMP-9を発現する可能性がある。今後、integrin分子種の同定やより詳細なシグナル伝達系について解析する予定である。
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