本研究では、平滑筋細胞のCa^<2+>流入経路として最も重要な電位依存性Caチャネルの調節機構について、Ca^<2+>による不活性化機序を明らかにしようとした。得られた成果の概要は次の通りである。1.ムスカリン受容体或いはヒスタミン受容体を刺激すると、脱分極パルスで誘発したCaチャネル電流は、最初の一過性とその後の持続性成分からなる二相性に抑制される。二相性の抑制効果発現にリン脂質代謝が関与している可能性について、リン脂質代謝関連酵素を阻害することが知られているワルトマンニンやD609などの薬物を用いて検討した。その結果、一過性の抑制効果にはホスホリパーゼCが関与し、持続性の抑制効果にはホスホリパーゼC或いはホスホリパーゼD系のある酵素が関与していることが明らかとなった。2.Caチャネル電流の抑制効果の発現に細胞骨格が関与している可能性について、アクチン及び微小管細胞骨格の重合剤又は脱重合剤を用いて検討した。その結果、Caチャネルの活性は微小管の脱重合により促進性の、重合により抑制性の調節を受けること、ムスカリン受容体刺激による二相性の抑制効果発現には微小管の重合過程が関与することが示唆された。3.二相性の抑制効果発現にCaチャネルのリン酸化が関与する可能性について、プロテインキナーゼA、プロテインキナーゼG、プロテインキナーゼC及びカルモジュリン依存性ミオシン軽鎖キナーゼの阻害剤及び活性化剤を用いて検討した。その結果、どちらの抑制効果発現にもチャネルのリン酸化過程は関与していないことが示唆された。以上の成果は論文2編としてBritishi Journal of Pharmacologyに公表した。今後は、ムスカリン受容体刺激からチューブリンの重合に至る情報伝達過程及び重合したチューブリンがどのようにしてCaチャネルの抑制を発現させるのかを検討する予定である。
|