鶏の強毒インフルエンザ、いわゆる家禽ペストは急性で致死的な伝染病であり、一度流行するとその国の養鶏産業は壊滅的な打撃を被る。しかし、野鳥が保有する弱毒のトリインフルエンザウイルスがどのようなメカニズムで鶏に対する病原性を獲得するのかは詳らかではない。そこで本研究では弱毒トリインフルエンザウイルス病原性獲得機構の分子レベルでの解明を試みた。我々はまず、国内に飛来する渡り烏から分離された弱毒トリインフルエンザウイルスを鶏ヒナの気嚢で24代、さらに脳で5代継代した。最終的に得られた24a5b株は鶏に対する致死率が100%の強毒株に変異していた。そこでこの弱毒ウイルス親株と一連の継代株のHA開裂部位のアミノ酸配列を調べた。その結果、親株の開裂部位には、塩基性アミノ酸R(アルギニン)が-1位と-5位にそれぞれ離れて単独で存在する典型的な弱毒型HAのアミノ酸配列であったが、継代を繰り返す間に2度の点変異と3塩基の挿入が起こり塩基性のアミノ酸(Rまたはリジン(K))への置換あるいは挿入が起こり、結果としてR-R-K-K-Rという合計5個の塩基性アミノ酸が連続した強毒ウイルスに変異していたことが明らかとなった。一方、継代株のニワトリ体内での増殖試験では継代を重ねるごとに、最初は鶏でほとんど増殖できなかった親株が徐々に他臓器増殖性を獲得し、最終的に脳を含む全身で増殖可能な強毒ウイルスに変異していたことが明かとなった。即ち、自然界においても渡り鳥が保有する弱毒トリインフルエンザウイルスが鶏に伝播し、鶏から鶏へと次々に新たな感染が操り返される間に、HAの開裂部位のアミノ酸が段階的に置換し、徐々に多臓器増殖性を獲得して強毒ウイルスに変異するものと考えられた。
|