研究概要 |
最近では「家畜の福祉」の対象動物の中に「実験動物」も含まれるようになり,実験中はもとより動物の取り扱い方全般に対する充分な配慮が必要となりつつある.具体的には,英国家畜福祉協議会(FAWC)によって批准されている動物の「5つの自由」に基づいた管理を行うことが基本原則となる.本研究者は,実験用動物にとって必要とされるであろう5番目の自由: 「怖れと不安からの自由」を念頭に置き,今年度は,ヒトに対するミニチュア豚の識別能力について一連の実験を行った.もしミニチュア豚がヒトを識別する能力を持たないのであれば,充分にヒトに馴らされた豚は,実験者および新たに接するヒトに対して怖れや不安を抱くことはない.しかし,もしミニチュア豚がヒトを識別する能力を有しているのであれば,飼育者および実験者がその能力を配慮した取り扱い方をしなければ,ヒトに対する豚の怖れと不安が増加されるものと考えられる.不安は,生体生理にも影響すると言われていることから,不安の軽減は実験用動物の福祉を向上させるだけでなく,実験精度を高めることにもつながる.そこで,1)識別能力の有無;2)能力があるとされた場合の識別の程度を明らかにすることを研究の課題とした.その結果,ミニチュア豚はヒトを識別することが可能であり,ヒトの服装・体型・顔などの手がかりを用いて視覚的に識別できることが明らかとなり,これらの結果を考慮した管理の必要性が示唆された.今後は,予定通り「ヒトと家畜との関係」の研究をさらに継続することを計画している.ただし,これまでのミニチュア豚に関する研究結果を基に, 「コマーシャル豚や乳牛とヒトとの関係」についても焦点を当てる予定である.特に食用家畜では,ヒトとの関係が「家畜の福祉」とともに生産性にも反映されることが近年報告されるようになってきており,研究が急がれる.
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