研究概要 |
本研究は,1)乳牛は人を弁別できるのか;2)できるとすればどのような刺激を手がかりとしているのかについて明らかにすることを目的とした.実験にはホルスタイン種の初産牛8頭を用いた.牛舎内に設置したY型迷路においてトレーニングを行った後に,同じ場所で実験に移行した.Y型迷路前方には,二人の実験者が入るボックスと二つの窓があり,その窓を通して,牛は実験者を見ることができるようになっている.窓の下には牛が鼻や頭で押せるようにスイッチを設けた.さらにその下に報酬飼料給与口と飼料皿が取り付けられた.実験にはオペラント条件付け学習に基づく同時弁別法を用い,報酬飼料を給与しない実験者に対して,給与する実験者側のスイッチを押せば正解として,自動的に報酬飼料が飼料皿に給与された.1セッションを10試行とし,8試行以上正解した場合に,牛は両実験者を弁別できたものと判断した(P<0.05).本研究は以下の3種類の実験からなった.実験1-両実験者が同色の作業服を着用する.実験2-両実験者が(1)顔のみを提示する;(2)顔を覆う.実験3-両実験者が(1)顔の高さを、等しくする;(2)顔を覆う;(3)顔を覆い,高さを等しくする.実験には,3人の報酬飼料給与者と2人の報酬飼料無給与者が参加した.実験はすべて午前中に行った.供試牛は両実験者を有意に(P<0.05)弁別した(実験1).顔のみを提示・顔を覆い高さを等しくした場合には弁別することができなかったが,顔を覆い高さは調節しない・顔を覆わず高さを等しくした場合には弁別することができた(実験2・3).以上の結果から,乳牛は同色の作業服を着用した人を弁別する能力を有しており,第一に体型の違いを,第二に顔の特徴を手がかりとして弁別していると考えられた.
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