本研究の目的は母体慢性尿毒症下の胎子腎臓における細胞増殖とアポトーシスの発現ならびにそれらをコントロールする分子生物学的現象の変化を解明することである。本年度は母体片側腎臓摘出(UNx)時の胎子腎臓の発達に関して以下の成績を得た。1.epidermal growth factorおよびそのレセプター(EGFR)の発現の変化を半定量的RT-PCR法を用いて調べた。胎生22日齢においてUNx胎子のEGFおよびEGFR mRNAの発現は対照胎子に比べて強かった。2.癌抑制遺伝子であり、障害時の細胞のDNA修復に携わるp53の発現の変化を半定量的RT-PCR法を用いて調べた。胎生22日齢においてUNx胎子のp53mRNAの発現は対照胎子に比べて弱かった。3.Wilm's腫瘍抑制遺伝子であり、細胞をアポトーシスに導くWT1の発現の変化を半定量的RT-PCR法を用いて調べた。胎生22日齢においてUNx胎子のWT1 mRNAの発現は対照胎子に比べて弱かった。さらに、平成10年および11年度には母体尿毒症下の胎子腎臓に関して、増殖期の細胞の減少とTUNEL陽性細胞の増加、腎小体と近位尿細管の発達の促進、発癌遺伝子(c-fos)およびアポトーシス抑制遺伝子(bcl-2)の発現の減少、腎小体におけるvascular endothelial growth factor(VEGF)の発現の変化、近位尿細管におけるEGFおよびEGFRの発現の増加を観察している。以上のことから、母体尿毒症下の胎子の腎臓ではEGFおよびVEGFの関与による発達の促進が認められるとともに細胞増殖活性の低下とアポトーシスの増加が起こることが明らかになった。さらに、細胞増殖活性の低下には発癌遺伝子の減少が、アポトーシスの増加には癌抑制(アポトーシス誘発)遺伝子ではなくアポトーシス抑制遺伝子が関与していることが明らかになった。
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