本研究では、母体慢性尿毒症下での胎子腎臓における細胞増殖とアポトーシスの発現ならびにそれらをコントロールする分子生物学的現象の変化を解明することを目的とした。はじめに、正常発達時における周生期の腎臓の細胞増殖とアポトーシスの出現の変化を調べた。周生期ラットの腎臓において細胞増殖活性は腎臓の発達とともに低下したがアポトーシスは胎生20日齢で一時的に増加した。次に母体の腎臓が慢性的な機能低下に陥った場合のモデルとして母体片側腎臓摘出時の胎子の腎臓を用い、細胞増殖とアポトーシスの出現の変化を調べるとともにそれらの変化に対する成長因子ならびに発癌および癌抑制遺伝子の関与を調べた。母体片側腎臓摘出によって胎子腎臓における成熟した腎小体の細胞増殖活性の低下、近位尿細管のEGFならびにEGFRの発現の増強および集合管におけるアポトーシスの増加が観察された。成熟した腎小体における細胞増殖活性の低下はVEGFの関与によって未熟な腎小体における細胞増殖が引き起こされた結果であり、近位尿細管におけるEGFおよびEGFRの発現の増強とともに母体腎臓機能低下による胎子腎臓の発達に対する促進作用であった。また、母体片側腎臓摘出によって発癌遺伝子であるc-fos mRNAの発現の減少が胎子腎臓で認められ、細胞増殖活性の低下にc-fosの発現の低下が関与していると考えられた。母体片側腎臓摘出によってアポトーシス誘発遺伝子(WT1およびp53)、アポトーシス抑制遺伝子(bcl-2)の発現の減少が胎子腎臓で認められた。母体腎臓機能の慢性的な低下による胎子腎臓の集合管におけるアポトーシスの増加にはアポトーシス誘発遺伝子が関与しているのではなく、アポトーシス抑制遺伝子の発現の減少が関与していることが示唆された。
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