本研究はLECラットの高い発癌率に対する酸化ストレスの関与を明らかにすると共に酸化ストレスによって生じたDNA損傷や細胞周期調節の異常遺伝子の解析を通じて肝癌発生との関連性を明らかにすることを目的として実施し、以下のような研究成果を得た。 1)LECラット肝臓においては銅だけでなく、鉄も同時に蓄積され、鉄や銅は生体内で種々の酸化ストレス物質を産生すると考えられているが、肝細胞におけるDNA損傷は銅の蓄積に依存し、鉄の蓄積には関与しないことを示し、こららの金属の生体内における反応性について重要な知見を得た。 2)酸化ストレスによって生じたDNAの2本鎖切断は主として非相同性末端結合(NHEJ)によって修復されるが、LECラット細胞ではこの修復に異常が存在する。LECラット細胞ではNHEJに重要な役割を果たすDNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)の機能に異常があることを示した。また、DNA-PKの構成成分であるKuタンパク質のDNAの切断生成後における細胞内局在を調節する機序に異常があることを示した。 3)疾患モデル動物を作製するため、バッククロスを繰り返しているが、特に雌で妊性が悪く、現在5代目で当該コンジェニックの作製にはまだ時間が必要と考えられる。 4)LECラット細胞はG1期だけでなく、G2/M期における細胞周期の進行調節にも異常があることを示し、DNA損傷によって引き起こされる細胞内の情報伝達系に種々の特徴的な反応を有することを示した。さらに、DNA損傷と関連しないストレスに応答する細胞内情報伝達系にも異常があることを示し、その原因遺伝子について検討中である。
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