研究概要 |
ブタ子宮筋には肥満細胞及び5-hydroxytryptamine(5-HT)様免疫活性陽性物質含有細胞が存在する。このことから、5-HTが子宮運動を調節しているregulatorではないかと考え、子宮筋収縮に対する5-HTの作用を検討した。その結果、5-HTがヒト、ラット子宮での報告とは異なり、ブタ子宮筋収縮を抑制することを見い出した。本研究では、先ずこの収縮抑制作用に関与する5-HT受容体サブタイプを薬理学的解析により5-HT7受容体と同定した。ついで5-HTによる子宮収縮抑制作用の細胞内メカニズムを収縮と細胞内Ca^<2+>濃度の同時測定実験、cyclic AMP測定実験から解析し、5-HT7受容体刺激により細胞内cyclic AMPが増加し細胞内Ca^<2+>濃度の低下と収縮蛋白のCa^<2+>感受性の低下が起き、子宮収縮が抑制されることを明らかにした。5-HTの子宮筋収縮抑制作用には収縮薬とは逆の筋層差(輪走筋>縦走筋)が認められた。この筋層差が生じる原因について薬理学、生化学的及び分子生物学的手法を用いて検討し、5-HT7受容体code遺伝子及び5-HT7受容体蛋白の分布が筋層により異なる(縦走筋:輪走筋=1:4)ことを突き止めた。子宮運動を抑制性に調節する受容体としてβ2-adrenaline受容体が挙げられるが、この受容体と5-HT7受容体の子宮における分布を比較したところ5-HT7受容体が輪走筋に局在するのとは対照的にβ2-adrenaline受容体は縦走筋に局在していることが明らかになった。即ちブタ子宮ではβ2-adrenaline受容体が縦走筋収縮を、5-HT7受容体が輪走筋収縮を抑制するように役割分担しているのではないかと推察された。5-HT7受容体の分布が、既存の弛緩薬(ritodrine,clenbuterol)の標的となるβ2-adrenaline受容体の分布と異なることは極めて興味深く、5-HT7受容体に関連した薬物(作動薬、遮断薬)でブタ子宮運動を制御出来る可能性を提示した。今後の課題としては、(1)5-HT7受容体の発現を調節しているホルモン機構の解明(器官培養、細胞培養)、(2)妊娠、分娩時における5-HT反応及び5-HT7受容体の変化(妊娠維持に5-HT7受容体がどのように関与するか)、(3)In vivo子宮運動における5-HT,5-HT7受容体の役割などが挙げられ、さらなる研究の継続が必要である。
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