研究概要 |
これまで,わが国では実験室ラットやドブネズミの保有するSeoul型ハンタウイルスと,北海道に生息するエゾヤチネズミの保有するPuumala型ハンダウイルスが存在しており,これらのウイルスがヒトに腎症候性出血熱を引き起こす可能性の高いことが知られていた。従って,まず日本のげっ歯類に常在するウイルスのヒトへの感染の有無について知ることをが重要である。そこで,日本国内のヒトを対象としたハンタウイルスの抗体調査とHFRS流行地区である極東ロシアで野ネズミ類と流行地の住民を中心にハンタウイルスの疫学調査を行い,両地区におけるハンタウイルスの流行様式を比較する。今年度は以下の3項目について研究を実施した。 1) サハリシとウラジオストックにおける疫学調査(苅和,高島) サハリンのユジノサハリンスクならびに極東ロシアのハバロフスク近郊でげっ歯類の捕獲調査を実施し,血清と肺を採取した。現在,抗体検査を実施中である。 2) 人におけるハンタウイルス感染症の血清疫学調査(有川) 日本国内の1,400人の健康な一般住民を対象にハンタウイルスの抗体調査を実施したところ,陽性例は一例も検出されなかった。しかし,関東地区の住民で原因不明の肝炎患者105例においては,3例からハンタウイルス抗体が検出され,抗体保有率は一般住民のそれと比べ有意に高かった(P<0.01)。さらにこれらの陽性例は中和試験によってSeoul型のハンタウイルスの感染を受けたことが推定された。したがって,わが国でもドブネズミなどを介した都市型流行の発生している可能性が示唆された。 3) ウイルス分離実験(苅和) 北海道のハンタヴイルス感染エゾヤチネズミの尿を遠心しながらVero E6細胞に接種したが,本ウイルスは分離できなかった。今後は感染動物の材料を実験動物に接種してウイルス分離を試みる予定である。
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