腸管出血性大腸菌の疫学調査のため、捕獲した野ネズミと河川水から病原性大腸菌の分離を行った結果、山地で捕獲された野ネズミ211匹中3匹(1.4%)から家畜関連地域で捕獲した野ネズミ62匹中1匹(1.6%)より病原性大腸菌の毒素産生菌株が得られた。1例分離された大腸菌の血清型O157は病原性大腸菌ではなかった。他の病原性大腸菌株はPCRでは本菌ベロ毒素産生遺伝子が検出され、VT1毒素を産生していることが確認されたが、血清型の同定には至っていない。また、土、河川水のサンプルから効率のよい病原性大腸菌を分離する方法を検討し、実施したが環境からの病原性大腸菌の分離は出来なかった。一方実験的に土に病原性大腸菌を接種してその存在期間を調べた。、37℃の条件では菌の消滅が以外に早く3ヶ月程でほとんど検出されなくなる。しかし、23℃の条件では3ヶ月後もかなりの菌数が土壌より分離され、いずれの温度条件でも約1ヶ月の間はかなり高い菌数が土壌中に保持されることが判った。ウシの放牧される牧場では地面にウシの糞が落ち、またそれが踏まれることなどから湿った土壌中にも病原性大腸菌が比較的長く生残し、牧場の汚染を継続させるであろことが示唆された。さらにネズミからVero毒素抗体検出方法を検討した。野ネズミからはVT1のみに反応する血清が252例中3例、VT1+2に反応する血清が252例中4例、VT2のみに反応する血清はなかっな。合計252例中7例(2.8%)がVero毒素に対する抗体を保有していたと考えられた。また、O抗原に対する凝集検査では252例中5例(2.0%)が希釈80倍の凝集を示した。今回0157:H7のいわゆるウシと関連性の高い腸管出血性大腸菌は分離できなかった。しかし抗体を保有している個体もあることから、野ネズミでの本菌の保有も有り得ることを明らかとなった。
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