遺伝的背景および飼育環境が一定に保たれたビーグル犬の脳を用い、フリーラジカルによる細胞傷害に対するMTsの防御効果を明らかにするとともに、脳の老化の機序の解明を目的として検索を行った。 その結果、 1)形態学的変性性諸変化 8才からすでに、加齢性諸変化(アポトーシス、神経細胞脱落、グリオーシス、軸索ディストロフィー等)が生じていること、MTImRNAは加齢に伴い発現が増強するが、MTIIIは年齢に関わらず一定の発現を示すことが示された。 2)鉄元素の脳内蓄積 嗅球、海馬、視床を含む脳内各部位における金属の定量的分析(誘導結合プラズマ発光分析法)および組織化学的検索(鉄染色)により、鉄および銅が加齢に伴い脳内に蓄積することが確認された。視床の神経細胞および血管周囲グリア細胞の細胞質内に顆粒状の鉄元素蓄積が認められた。同部位にリポフスチン色素沈着が著明であることから、鉄蓄積によるラジカル傷害発生と細胞内小器官変性に基づくリポフスチン色素形成との関連が示唆された。また、鉄蓄積の著明な視床におけるメタロチオネインmRNAの発現増強が確認され、メタロチオネインのフリーラジカル防御能が示唆された。 3)ビーグル犬新生脳由来培養神経細胞およびアストロサイトにおけるX線照射後のMT誘導 光学・電子顕微鏡学的ならびに分子病理学的検索を実施し、培養細胞におけるアポトーシスおよびMTsの発現の確認を試みたが、一定した結果は得られなかった。
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