0157:H7に代表される腸管出血性大腸菌(STEC)は、感染した場合に、本来の標的部位である大腸に出血性の炎症を引き起こすのみならず、STECが産生する強力な毒素(vero毒素、以下VTと略す)が血中に移行して、溶血性尿毒症症候群や脳症などの全身性の合併症を引き起こす。これらの全身性の症状は、VTが、血管内皮細胞や腎の近位尿細管上皮細胞などを傷害するために生じると考えられていて、その傷害メカニズムには、細胞膜に存在するイオン輸送体が関与する可能性が指摘されていた。本研究では、このイオン輸送体の解明と、輸送されたイオンが細胞内のいかなる経路を介して細胞死を引き起こすのかを明らかにすることを目的として実験を行った。 成果 1)細胞内Caイオン濃度の上昇を抑制する、BAPTA-AM、verapamilに、VTの細胞死誘発を軽減する作用を見いだした。 2)細胞内Caイオン濃度の変化によって活性化する可能性が報告されていたMAPK familyの中で、VTがp38MAPKやextracellular signal-regulated kinase1/2(ERK1/2)を活性化することを発見した。 3)BAPTA-AM、verapamilに、VTによるp38MAPKの活性化を抑制する作用を観察した。 4)p38MAPKの活性化を抑制する薬剤である、SB203580とPD169316に、VTによる細胞毒性を軽減する作用を見いだした。以上の結果から、VTは、verapamil感受性のイオン輸送体からCaイオンを細胞内へ流入させ、p38MAPKを活性化して細胞毒性を現す可能性が考えられた。成果については、一部を図書に著し、残りについては論文投稿準備中である。 今後、イオン輸送体の詳細な性質の解明、細胞内Caイオン濃度上昇からp38MAPKを活性化する経路など残された課題の究明に取り組みたい。
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