本研究では、化石資源から作られるプラスチックス類の代替物質になりうる材料設計を目指し、生分解性を有する材料に機能性を付与することを目的としている。本報告では、生分解性を有する物質として天然の多糖であるセルロースを出発物質とし、機能性化としてシアノエチル化を選び、セルロースに前処理を施した後シアノエチルセルロースを合成した。前処理を施したのは、シアノエチル化をより均一系に近づけて行うためである。そのシアノエチルセルロースの置換基分布を、NMR法を用いて決定した。また、シアノエチルセルロースの物性を評価した。物性としては、溶解性、熱分解性、誘電特性、動的粘弾性である。誘電特性の結果からは、導入したシアノエチル基の見かけの活性化エネルギーを算出することができた。また、前処理と見かけの活性化エネルギーとの関係より、シアノエチル基の置換基分布や分子のパッキングの異なっていることが考えられた。しかし動的粘弾性においては、導入した官能基が小さいため、分子骨格への大きな影響を見出すことは出来なかった。 出発物質をバクテリアセルロースにすると、その形態学的特長を維持したままシアノエチル基を導入することは困難であった。また、本実験で6位に導入したシアノエチル基は、セルラーゼに対して立体障害となりうる可能性が示唆された。今後は低置換度で酵素分解性を保ちつつ機能も発現させる分子設計を目指し、置換度と物性・分解性との定量的な関係の解明が望まれよう。
|