研究概要 |
シャクガ科昆虫の性フェロモンの多くは、(3Z、6Z、9Z)-トリエンや(6Z、9Z)-ジエンから導かれるモノエポキシ化物で、末端に官能基を含むカイコガの性フェロモン(ボンビコール)などとは化学構造が異なる。その構造上の特徴から、リノレン酸やリノール酸を出発原料に、直鎖の伸長や脱炭酸ならびにエホキシ化反応によって生合成されることが予想されるが、実験による確認はこれまで全くなされていない。鱗翅目の中でもとりわけ多種の昆虫を含むシャクガ類が、種特有の性フェロモンどのようにして構築しているか大変興味深い。特に、エポキシ化酵素はmfoとは異なり高い基質特異性を有していることが考えられる。そこで今回、茶の重要害虫であるヨモギエダシャクを材料に、まずその性フェロモンcis-3,4-epoxy-(6Z,9Z)-nonadecadieneの生合成過程の解明を行うとともに、エポキシ化酵素の基質特異性を調査した。 まず処女雌のフェロモン腺抽出物のGC-MS分析により、生合成前駆体と思われる(3Z、6Z、9Z)-nonadecatrieneの存在が確認され、その水素化標識化合物をリノレン酸を原料として合成した。この化合物を神経ペプチドホルモンによりフェロモンの生合成を活性化した雌蛾のフェロモン腺に塗布したところ、明らかな性フェロモンへの変換が認められた。さらに炭素数の異なる(3Z、6Z、9Z)-トリエンなどの不飽和炭化水素のフェロモン腺での変換を調べた結果、本種のエポキシル化酵素は高い選択性のもとに(Z)-体-3位二重結合のみをエポキシ化するが、興味深いことに直鎖の炭素数や3-位以外の二重結合の有無に関する基質特異性は低いことが判明した。このような特性はフェロモン生合成のエポキシ化酵素において一般的なことか、現在クワエダシャクなどを材料に実験中である。
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