シャクガ科昆虫は、末端に官能基を含まない直鎖状不飽和炭化水素のモノエポキシ化物を性フェロモンとして分泌する。まず重水素標識した化合物等を用いたin vivo実験から、フェロモン腺に存在するエポキシ化酵素の基質特異性を明らかにした。また体液の分析結果などから、不飽和炭化水素はエノサイトあるいは真皮細胞で生合成され体液を経由してフェロモン腺に移動すること、すなわちフェロモンの生産様式はカイコなどとかなり異なることを明確にした。さらに、その生産は食道下神経節から分泌されるホルモン(PBAN)によって制御されているが、PBANはエポキシ化の過程ではなく、体液中の不飽和炭化水素のフェロモン腺への移動を促すことを、培養フェロモン腺を用いた実験から示した。 雄蛾の触角の感覚子液中にはフェロモン結合タンパク質(PBP)が高濃度に存在する。シャクガ科昆虫のPBPのアミノ酸配列を決定したところ、カイコPBPと約80%の相同性が示され、特徴的な6つのシステイン残基が同様な位置に組込まれていた。結合特異性など、その機能を現在検討中である。 エポキシ系性フェロモンは、ヤガ科やヒトリガ科昆虫などからも同定されている。種の多様性を鑑みると、これまで知られていない化合物が生産され、また雄蛾によって受容されている可能性が考えられる。このことを裏付けるように、ドクガ科昆虫から、ジエポキシ化物や11-位trans-エポキシ環を持つ新規な性フェロモン成分を同定することに成功し、生産や受容機構解明のための興味深い材料を発見することができた。
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