研究概要 |
「哺乳類細胞に効率よく遺伝子を導入できる技術の開発」を目的として立案した平成10年度の研究計画に対して,以下のような回答を得た. 1. トポイソメラーゼ(トポ)II阻害剤であるVP-16やICGF-193は,挿入されたベクターと染色体DNAの連結部位の構造にどのような特徴を生むのか? ベクターと染色体DNAの連結部位付近をInverse PCR法で増幅し塩基配列を決定した. (1) 解析した30クローンの連結部位に共通の配列は見い出されなかったが,連結部位付近にAlu様配列が多く観察された.このことは,トポIIが阻害されることによって染色体のトポロジー変化が起こった結果ベクターが挿入され易い領域が生じた可能性を示唆する. (2) ベクターが染色体に挿入する際にベクターの末端が欠失する現象が頻繁に起こるが,トポII阻害剤の存在下ではごく短い欠失しか生じないことを発見した.この現象が,トポII阻害剤がベクターの導入頻度を10倍も上昇させる機構の一部と考えられた. (3) ベクターが染色体に挿入する際に,ベクターの末端に未知の配列が連結する現象はよく知られているが,本研究過程でその未知配列の起源が同定できた.その結果,ベクターが染色体に挿入される機構の一部が推測でき,そのモデルが提唱できた. 現在,(2)と(3)の結果をまとめた学術論文を投稿中である. 2. ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)はベクター挿入に必要か? PNPR活性の低下した培養細胞変異株を用いて,PARP活性と挿入効率の相関性を見たところ,変異株は野生株よりもベクターの導入効率が低いことが判明し,ベクターが染色体に挿入される機構の一部としてPARPが寄与していることが強く示唆された.この結果に関する学術論文は作成段階にある.
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