本研究は、哺乳類動物の細胞あるいは個体組織に100%に近い効率で遺伝子を導入できる技術を開発するための基礎研究として、以下のような知見を得た。 1.哺乳類培養細胞へ遺伝子を導入する際にトポイソメラーゼ(トポ)II阻害剤を共存させておくと、遺伝子の導入効率を顕著に促進できることはすでに発見していたが、ブレオマイシンなどのDNAの二重鎖切断試薬を使用してもトポII阻害剤と同様の促進効果が得られることを新たに発見した。 2.すでに発見していたトポII阻害剤による導入遺伝子の染色体への挿入効率の促進が、トポII活性が低下した結果であることを検証するために、トポII遺伝子がヘテロに欠失したマウス胚性幹細胞をジーンターゲティングによって取得した。 3.トポII阻害剤の共存下で遺伝子を導入した際の、染色体遺伝子と導入遺伝子の連結部位のゲノム配列を解析した結果、以下のような特徴が検出された。すなわち、(1)導入遺伝子の末端にはインサートDNAがしばしば挿入される、(2)このインサートDNAは、染色体との連結部位近傍にある染色体DNAあるいは導入遺伝子の一部の塩基配列に由来している、(3)導入遺伝子の末端は0〜1000塩基の範囲で欠失する、(4)導入遺伝子が挿入された領域の染色体DNAもしばしば欠失する、(5)インサートDNAや欠失の長さは用いるトポII阻害剤の種類によって異なる。 以上にように、導入遺伝子が染色体に挿入されるメカニズムを詳細に解析した研究は数少なく、効率よい遺伝子導入法を開発するための貴重な基礎データを蓄積したといえる。
|