イネいもち病菌の付着器形成誘導には、外界因子をトリガーとしたde novoの遺伝子が必須であることから、cDNAサブトラクションにより感染初期過程に発現する遺伝子群のディファレンシャルcDNAライブラリーを得た。さらに完全長のcDNAライブラリーおよびコスミドライブラリーによる染色体遺伝子構造解析系の確立、感染初期過程のいもち病菌体の遺伝子発現解析系の効率化等によりライブラリーの解析を行った。 これまでに独立した約160クローンの両端塩基配列の解析が終了した。興味の持たれる遺伝子の機能解析のため、遺伝子破壊を行ったところいもち病菌の付着器形成誘導に重要な役割を持つと示唆される遺伝子が見い出された。 それらのイネいもち病菌の付着器形成に重要な役割を持つと推定される遺伝子群から付着器形成時に極めて特異的に発現するクローンA4について、その遺伝子破壊体のさらに詳細な形質解析および遺伝子に構造解析を行った。A4遺伝子破壊株は、各種の固体人工基質上での付着器形成誘導能をほとんど失っていたが、植物体上では親株とほぼ同様の付着器形成能を有し、病原性も保持していた。このことからA4遺伝子破壊株は固体基質表面の物理的因子に対する認識能が著しく低下しているが、その他の付着器誘導トリガーである化学物質に対する応答能は保存されていると推定された。本遺伝子は全体としては既知の遺伝子と相同性を待たなかったが、局所的に植物のキチナーゼに特異的にみられるキチン結合ドメインを思われる相同部位を2つ持ち、C末端付近に異常なセリン・スレオニンクラスターを持つ特異な構造を有する分泌タンパクをコードするものと推定された。これらの特徴的なドメインを部位特異的変異法により改変したところ、いずれも遺伝子の機能を失った。キチン結合ドメインは、これまで糸状菌のキチン関連タンパクからは見つかっていない、植物に特徴的なものであり、その由来に興味が持たれた。
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