キンギョ色素胞の細胞骨格を抗原として作成されたモノクローナル抗体(A2)を用いて、脂肪滴を持つラット培養肺胞中隔細胞と精巣上体周囲脂肪細胞における、A2抗体で標識される抗原の挙動について検索した。蛍光抗体法では、in vivoの肺の中隔細胞内脂肪滴周囲がリング状に標識され、培養細胞でも同様のリング状標識と細胞質全体に広がる線維状標識が認められた。リング状標識は培養開始後1〜2日目の細胞に顕著で、3日目以降は脂肪滴の減少に伴って消失したが、ビメンチン線維の分布と一致する線維状標識は残った。Western blottingではA2抗体は190kDaおよび58kDaのバンドを認識した。この抗原は0.6MのKCl処理で可溶化されてしまったが、0.3MのKClでは残存した。培養細胞に対してサイトカラシンB処理を行うと脂肪滴周囲の標識は消失した。コルセミドで2〜4時間処理した細胞でも脂肪滴周囲標識が消失し、分布変化したビメンチンと一致する核周囲の渦巻状標識のみが見られた。これらの結果はA2抗体で標識される抗原がアクチン線維、ビメンチン線維と関連した形で、脂肪滴周囲に存在することを示唆する。ところが、コルセミド処理を12時間以上続けると、微細管は脱重合したままにもかかわらず、A2抗体による脂肪滴周囲の標識が回復した。この現象の意義について現在検討中である。脂肪滴を持たない水晶体の試料では本抗体はvimentin抗体と同じ57kDaのバンドを認識することから、mAb(A2)で認識される190kDaの抗原はビメンチンとエピトープを共有することが示唆された。われわれは肺胞中隔細胞の脂肪滴周囲の細胞区画にフォドリンが存在することを示している(未発表)。これらのことから、この抗原はフォドリンや細胞骨格系と密接にかかわりながら脂肪滴の保持に関与していると思われた。
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