研究概要 |
消化管上皮に存在するセロトニン含有細胞(EC細胞)が消化管機能に果たす役割は、本研究によってほぼ全貌が明らかになった。まず潅流実験で、EC細胞からのセロトニン分泌の方向性と神経性制御に関してレセプターレベルでの検索を行った。その結果、コリン作動性神経はEC細胞の基底側にあるムスカリン受容体を介して刺激性に働き、VIPやPACAP神経はEC細胞基底側のVIP2型受容体を介して抑制性に働く事がわかった。また、VIP受容体はNOの存在下でのみ作用を発揮することがわかった(文献1,2)。潅流実験と免疫電顕で、EC細胞からセロトニンは主として管腔中に分泌され、(文献1,2)、セロトニンと共存する蛋白であるchromograninAに於いても同様に管腔分泌が観察された(文献4,7)。さらに、EC細胞から分泌されたセロトニンが、消化管機能にどういう影響を及ぼすかを、潅流腸管の運動をモニターすることで調べた(文献5,6)。その結果、セロトニンは腸管の規則的な収縮運動に欠くことのできない物質であることが判明した(文献10)。続いて消化管の疾患にセロトニンがどう関係するのかを、炎症性腸疾患モデル動物を作成して調べた。その結果、モデル動物においてセロトニンを含有するEC細胞や肥満細胞が著明に増加し、炎症性腸疾患の病態にセロトニンが深く関与することがわかった(文献9)。以上の一連の実験結果より、消化管機能の制御系としてセロトニンが重要な働きをしており、その異常が種々の消化管疾患をひきおこすことが明らかになった。
|