低分子量G蛋白質は、GTP/GDPサイクルによってその活性を調節されている。このサイクルに異常をきたすような変異、例えばGTPase活性を失う様な変異を低分子量G蛋白質の遺伝子に導入して培養細胞に発現させ、本来細胞内に存在する内因性の蛋白質の機能を阻害させる実験(dominant negative法)が低分子量G蛋白質の機能を推測するために用いられている。本研究はエンドサイトーシス、エクソサイトーシスなどの細胞内小胞輸送を制御する因子と考えられている低分子量G蛋白質であるRab分子の中で、Golgi装置に局在するRab6に焦点をあて、Rab6変異遺伝子を培養細胞に発現させ、そのGolgi装置への影響をコンフォーカルレーザー顕微鏡および電子顕微鏡によって検討した。NRK細胞にミュータントRab6蛋白質(GTPase欠損型)を発現させると、著しいGolgi装置の変化が認められた。コントロール細胞に通常認められる層板状のcisternaは失われ、Golgi装置のcisternaは空胞化していた。しかしながら一部のGolgi装置ではいくつかのcisternaが膨潤しているものの、Golgi装置としての全体的な形状は維持していた。この膨潤化はGolgi装置のトランス側のcisternaで起こりやすい傾向があることがわかった。さらに、Rab6Q72L遺伝子を導入した細胞では、粗面小胞体の異常な拡張が認められた。拡張した粗面小胞体には蛋白質の蓄積が観察された。時にこの拡張した粗面小胞体は異常に巨大化し、核にも匹敵するほどの大きさのものも認められた。これらの観察結果は、Rab6における通常のGTP/GDPサイクルがGolgi装置の形態維持に必須であることを示唆する。おそらくRab6Q72LはGolgi装置のトランス側層板の小胞輸送を妨害し、その結果Golgi装置の小胞輸送が全般的に撹乱され、Golgi装置の断片化、空胞化が引き起こされると推測される。粗面小胞体の拡張・分泌蛋白質の蓄積は、Golgi装置の機能不全のために小胞体からGolgi装置への小胞輸送が跡絶えたために生じた2次的な現象であると考えられる。今後はRab6と相互作用する分子などの研究により、Rab6の生理機能をさらに研究する必要がある。
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