我々のクローニングしたEnx-2遺伝子は、マウスの神経芽細胞腫に由来する細胞株、Neuro-2aを用いた実験で、分化誘導時に転写レベルが上昇する。また本蛋白質に対する特異抗体を用いた免疫染色でも、分化誘導に伴い蛋白質レベルでの発現の上昇を確認している。このことから、Enx-2遺伝子は神経分化のプロセスに何らかの役割を果たしていると考えられる。免疫組織化学的な検索は、このタンパク質が細胞質内で偏在するを示しており、Enx-2が細胞基質のチュブリンに結合をして存在する可能性を示唆している。Enx-2と相同性の高い遺伝子としてEnx-1が知られているが、血球系の細胞では、Enx-1がproto-oncogeneのVavと相互作用している。また、Vavはチュブリンに結合をするこが分かっており、Enx-2もなんらかの理由で細胞基質に局在することが考えらる。 ショウジョウバエのE(z)からヒトのE(z)ホモローグに至るまで、種を越えて強く保存されているアミノ酸配列が存在する。Box1、Box2、Box3及びSETと名付けられている領域がこれに当たる。E(z)は転写因子として機能するのではないかと予想されているが、DNAと相互作用するかどうかについては何も解っていない。そこで、次のような実験を行った。両端にユニークな塩基配列、中心部分にランダムな配列を含んだオリゴDNAを用意し、GST-Enx-2融合タンパク質とこのDNAを混合したものをグルタチオンカラムにかけ、未反応のDNAを洗い流す。カラムに結合したDNAをPCRで増幅し、再びリコンビナント蛋白質と混合する。この操作を数回行った後、DNAの塩基配列を調べた。調べた限りでは、DNAに共通な配列は見い出されず、Enx-2は特異的にDNAと相互作用することはないように考えられる。
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