我々は、これまで脊椎動物の発生に焦点を当てて、動物発生の鍵を握ると予想される遺伝子に関するcDNAクローニングを行ってきた。我々は本研究おいてヒト及びマウスのENX-2/Enx-2遺伝子クローニングを行った。これらには、ショウジョウバエの発生関連遺伝子として知られるEnhancer of zeste「E(z)]遺伝子に相同な遺伝子である。また、アフリカツメガエル(X. leavis)の卵巣に由来するcDNAライブラリーから、やはりE(z)関連遺伝子を単離した。ショウジョウバエのE(z)は、polycomb遺伝子群に属し、Homeobox遺伝子に対して負の調節を行う事が知られている。昆虫のみならず脊椎動物においても、多くのHomeotic遺伝子が見出されていることから、これらカエル、マウス、ヒトのE(z)相同遺伝子も同様にHomeotic遺伝子の発現調節に関与していると予想される。 本遺伝子の機能を調べることは、脊椎動物の形作りや器官形成、細胞の分化の機構を解明する上で、重要であると考えられた。実際に、神経細胞様に分化誘導の可能な、マウスの神経芽細胞種に由来する細胞株、Neuro-2aを用いた実験では分化誘導時に、Enx-2の転写レベルが上昇する事を明らかにした。また本蛋白質に対する特異抗体を用いた免疫染色でも、分化誘導に伴い蛋白質レベルの発現の上昇を確認した。このことは、Enx-2遺伝子が神経分化のプロセスに何らかの役割を果たしている事を示唆するものである。また、アフリカツメガエルのE(z)関連遺伝子は、受精前の卵細胞を発現していることから、卵形成や初期発生に関与していることが期待される。
|