研究概要 |
ラットの動脈各部の摘出片を用いて約25%の伸展刺激を1時間負荷した後のそれぞれの片の内皮細胞におけるストレスファイバー(SF)形成とストレスタンパク質70の合成の様子を蛍光組織学的に検出し,定量的検索を行った。その結果,SFに関しては正常対照群において既に発現量に部域差があり,SF保有細胞の割合が20%以下とそれ以上の2群に大別できた。これらの内,SF保有率の高いものは伸展刺激による高い本線維の誘導形成が認められたが,低いものではこの誘導形成がかかるものとそうでないものに分かれた。特に,大動脈弓内弯側部,胸大動脈近位部,総頚動脈中央部,左鎖骨下動脈,内頚動脈,腎動脈頭側端では刺激による誘導形成は全く認められなかった。一方,ストレスタンパク質70に関しては,正常対照群における部域差は殆ど認められなかったが,伸展刺激が負荷された場合には明瞭な差が認められた。即ち,SF形成における上述の部位に加えて腕頭動脈,左総頚動脈,総腸骨動脈内側部における伸展刺激によるストレスタンパク質70の誘導合成率は非常に低かった。ストレスタンパク質70は変成タンパク質の生成を抑え,SFは細胞・基質間接着を強化する働きをもつと考えられているので,これら2つの系がいずれも伸展刺激に対して極端に低い反応しか示さない大動脈弓内弯側部,胸大動脈近位部,総頚動脈中央部,左鎖骨下動脈,内頚動脈,腎動脈頭側端はそれらの内皮細胞が厳しい物理環境に曝された場合,その刺激に対する対応が遅れる可能性のある部位と推察された。即ち,糖尿病による血管病変像が報告された大動脈弓内弯側部に加えてここに列記した血管部位も病変を起こしやすい部位である可能性が高い。実際,対照群におけるこれらの部位の内皮細胞は類多角形であり,強い機械刺激に曝されていないこと,また強い浸透圧刺激によって他部よりも細胞変性を起こしやすいとの結果も上記可能性を支持していると思われる。
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