研究概要 |
本年度の狙いの一つであった機械刺激に対する応答性の良し,悪しが実際の内皮細胞機能にどの程度反映されているのかを調べる方向に関連して,機械的刺激にも応答して内皮細胞で産生されるNOにつき具体的に追求しうる方向が得られた。最近,非常に高感度なNO蛍光指示薬として開発された4,5-diaminofluorescein diacetate(DAF-2DA)は生細胞において使用することを前提にしていること,また,小動脈や静脈など内皮細胞の厚みが非常に薄く,下部の平滑筋細胞と密着しており,なおかつサイトカイン等で両細胞共に反応してNOを産生する場合にはそれぞれのシグナルを分離することは共焦点レーザー顕微鏡をもってしても困難である。こうした点を解決するために我々は組織・細胞を固定し,同時にDAF-2DA/NOによる蛍光を保存・検出する方法を探った結果,DAF-2DAとアルデヒド系固定剤の組合せが有効であることを見出した。すなわち,DAF-2DA存在下にアセチルコリンでNO産生を刺激した培養内皮細胞を100%アセトン,95%エタノール,2%グルタールアルデヒド,および2%パラホルムアルデヒドで固定したところ,後2者で強い蛍光が認められた。その蛍光は同条件での生細胞のものよりはるかに強力で,またグルタールアルデヒド処理の方がパラホルムアルデヒドより強かった。この関係は4,5-diaminofluorescein(DAF-2)と両固定液との混合液における蛍光波吸収測定でも確認された。DAF分子のアミノ基とこれらの固定剤分子が持つアルデヒド基が反応してDAF分子を細胞内に留め,その結果DAF-NOによる蛍光も細胞内に保存されることになったものと考えられる。アルデヒド基を1分子当たり2個もつグルタールアルデヒドが1個しかもたないパラホルムアルデヒドより高い反応性を示したものと思われる。この方法と我々が開発した上皮剥離法をラットの血管に適用し,剥離内皮シートに強い蛍光が認められ,その有用性を確認することができた。
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