ATP受容体が存在する組織では、オートクライン/、パラクライン的に、その組織内でATPが放出され、ATPを介した細胞間相互作用が生じると予想される。我々は、発生初期鶏胚の網膜神経上皮において、ATP受容体の活性化による細胞内[Ca^<2+>]上昇が、細胞増殖期に特異的に生じることを明らかにしており、本研究では、発生初期鶏胚の網膜神経上皮において、1)ATPが放出されるか、2)ATP受容体の阻害による細胞増殖への影響、を明らかにすることを目的とした。 平成10年度では、ATP検出のための化学発光測定法として、ルシフェリン/ルシフェラーゼ法を導入した。具体的には、発生初期鶏胚から摘出した網膜神経層を器官培養し、培養液中のATP濃度の変化を測定した。培養開始後、1時間、24時間、48時間の時間間隔で、微量の培養液を採取しガラスキュベット内に入れ、発光基質であるルシフェリン、及び、発光触媒酵素であるルシフェラーゼを添加した。その結果、培養開始後1時間で、培養液中のATP濃度が25倍に増加し、このレベルは少なくとも24時間維持された。 ATPはATP受容体を介して細胞増殖促進因子として作用することが報告されている。細胞増殖期の網膜神経上皮においても、ATPが増殖促進因子として作用することが予想される。この点を、発生初期鶏胚の網膜神経上皮の器官培養系を用いて検討したところ、ATP受容体の阻害剤を培養液に添加することにより、濃度依存的にDNA合成量が抑制されることを確認した。この所見は、増殖中の網膜神経上皮においても、ATPが増殖促進因子である可能性のみならず、ATPが組織中に放出されていることをも示唆するものである。本研究により、増殖中の神経上皮においてATPの放出が実証され、神経上皮細胞の増殖におけるATP受容体の機能的役割の解明へ向けて、より一層の理解の進展がもたらされた。
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