アデノシン三燐酸(ATP)受容体が存在する組織では、オートクライン/パラクライン的に、その組織内でATPが放出され、ATPを介した細胞間相互作用が生じると予想される。我々は、増殖期の網膜神経層細胞にはATP受容体が存在し、ATP受容体の活性化により細胞内カルシウムストアからカルシウムイオンが細胞質中に放出され細胞内カルシウム濃度上昇が生じることを明らかにしている。本研究では、増殖期の網膜神経層細胞がATPを実際に放出しているか、さらに、ATP受容体の活性化と細胞内カルシウム濃度上昇が網膜神経層細胞の細胞増殖を制御しているかを明らかにすることを目的とした。 1)網膜神経層におけるATP放出 孵卵3日目(E3)の鶏胚から摘出した網膜神経層を器官培養し、培養液中のATP濃度の変化をルシフェリン/ルシフェラーゼ法により測定した結果、培養開始後1時間で、培養液中のATP濃度が25培に増加し、このレベルは少なくとも24時間は維持された。この結果は、ATPが網膜組織中に放出されていることを示唆する。 2)ATP受容体の活性化による細胞内カルシウム濃度上昇と細胞増殖 上記の網膜器官培養系において、トリチウムチミジンの取り込み量を計測し細胞増殖の定量的指標とした。培養液にATP受容体の阻害剤を添加した結果、トロチウムチミジンの取り込み量は濃度依存的に抑制された。逆に、ATPの添加によりトリチウムチミジンの取り組み量は約2倍まで増加した。次に、細胞内カルシウムストアのカルシウムポンプの阻害剤、及び、容量性カルシウム流入の阻害剤を培養液に添加すると、これらの阻害剤は濃度依存的にトリチウムチミジンの取り込み量を抑制した。これらの結果は、網膜神経層細胞の増殖が、ATP受容体の活性化と細胞内カルシウム濃度上昇により制御されていることを示唆する。
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