研究概要 |
私達は、大量のプロトンイオン(H^+)を短時間に細胞外に排出するユニークな機構として注目している膜電位依存性H^+チャネルが非常に高い温度依存性を持つことを、これまでにマウス骨髄幹細胞由来マスト細胞(BMMC)を用いて明らかにしてきた。本研究では、BMMC、ラット脊髄ミクログリア、ラット破骨細胞など異なる機能を持つ細胞でのH^+チャネル活性の発現状況や制御機構を調べた。round/ameboid型の活性化ミクログリアでは、H^+電流が高率(>90%)に記録され、高い温度依存性も確認されたが、ramified型の静止ミクログリアでは電流量が小さく温度上昇によっても増強しなかった。また、破骨細胞はH^+分泌細胞の一つで、ウサギ破骨細胞ではH^+チャネルの報告があるが、ラットでは、H^+チャネルの電気的特性を備えた電流は非常に小さく、温度を上昇させても増大は見られなかった。脱分極によるH^+電流の活性化過程は、BMMC,ミクログリアで共にHodgkin-Huxley型曲線(3次)でよく近似された。24℃で、+40mVの脱分極パルスでの活性化時定数は、BMMCでは非常に遅く時には検出されない場合もあるのに比べ(2350±751ms,mean±sem;n=5)、ミクログリアでは著明に小さかった(481±31ms;n=9)。また、定常状態の電流振幅もBMMC(+40mVで6.9±2,8pA/pF;n=5)に比べミクログリアでは著明に大きかった(31.3±10.7pA/pF,n=9)。これらの結果から、(1)組織によって異なる電気的特性を持つH^+チャネルが存在する可能性、(2)H^+チャネルの発現が細胞の機能的状態あるいは培養条件と強く関連する可能性が示唆された。平成11年度は、組織や細胞の表現型によってH^+チャネルの発現や活性を変化させる因子を検索する。
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