研究概要 |
本研究は、唾液腺腺房細胞の水電解質輸送と蛋白分泌へのエネルギー供給量を測定することにある。10年度に行った耳下腺血管潅流系を用い、水分泌測定・アミラーゼ分泌測定・酸素消費測定に続き、平成11年度は、顎下腺血管潅流系を用い、水分泌測定・ムチン分泌測定・酸素消費測定を実施し、別のタイプの蛋白分泌に要求される酸素消費を分離測定した。分泌はイソプロテレノール(Isp)1 μM,カルバコール(CCh)1 μMの単独および同時投与で誘発した。Isp単独では、水分分泌は殆ど誘発されず、唾液が採取されず、ムチン分泌の測定が不可能であった。一方、CCh単独投与で、ムチンは急速に分泌速度を上げ最初のサンプル(1分)でピークの後急速に低下し2分で測定限界以下になった。一方水分泌は急激に上昇し4-5分でプラトーとなり、Cch刺激中値を維持した。CCh刺激開始5分にIspを潅流液に加えるとムチン分泌は急速に上昇し、Isp添加後1分で最大値となりその後ほぼプラトーレベルを保った。CChによる水分分泌速度・酸素消費はIsp投与により影響を受けなかった。本実験により、水分分泌が誘発されない場合、導管を通しムチンが口腔内に分泌されないこと、初期一過性のムチン分泌が観測されその後抑制されるが、Ispの投与により増強されることが明らかになった。これは耳下腺アミラーゼ分泌の場合と良く似ており、共通の制御機構が存在すると考察される。一方、耳下腺のIspによる水分泌増強を詳細に調べた結果、CCh刺激後期にわずかながら水分分泌を増加させることが明らかになった。このことはアミラーゼ分泌増加と対応した酸素消費増加分と見なしたものは、水分泌増加に由来する可能性が高くなった。ムチン分泌では、水分泌・酸素消費の増加が見られず、このことは、開口分泌は、測定限界以下のエネルギー要求で遂行されることを示唆している。
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