私達は生体近赤外分光法により近赤外連続スペクトルを測定し、それを多成分解析することにより生体成分の変化をを定量的に求めてきた。そして、生体内で産生された一酸化窒素(NO)が、血中ヘモグロビンと結合してできる一酸化窒素ヘモグロビン(HbNO)をこの方法により定量できることを示し、HbNOが酸素濃度5%の低酸素負荷時に10分位の経過で増加していくことを見つけた。生体内には一酸化窒素合成酵素(NOS)のアイソフォームには、神経型(ncNOS)、内皮型(ecNOS)、及び、誘導型(iNOS)の3種類が知られている。そこで低酸素負荷時に発生するNOがこれらのNOSのどのアイソフォームに由来するのかを検討する為、NOSの各種阻害剤を用いてHbNOの産生状況を調べた。まず、非特異的阻害剤のN-モノメチルアルギニン(NMMA)50mg/kgの腹腔内投与により、低酸素負荷時のHbNOの増加はほぼ完全に抑えられた。次に、ncNOSの特異的阻害剤の7-ニトロインダゾール(7-NI)をピーナツ油に溶解したものを60mg/kg腹腔内投与したところ、HbNOは減少傾向を示したが、誤差範囲内でほぼ一定であった。次にiNOSの阻害剤のアミノグアニジン(AG)80mg/kgを腹腔内投与したところ、HbNOはやはり殆ど変化せず一定であった。また、ncNOS及びecNOSに相対的に強い阻害効果を示すL-ニトロアルギニンメチルエステル(L-NAME)60mg/ml投与でもHbNOは誤差範囲内で変動するだけであった。一方、iNOSに相対的に強い阻害活性を示すS-エチルイソチオ尿素30mg/kg投与ではHbNOの上昇が見られた。これらの阻害実験の結果から低酸素負荷時のHbNOには、恐らくiNOSの関与は無く、nc-或はec-NOSによることが示唆されたが、そのどちらかを決めることはできなかった。今後、測定法の改良によるS/N比の向上、及び、解析法の改良により誤差変動を抑えることが必要であり、現在、進行中である。
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