我々は連続スペクトルを測定し、多成分解析して生体成分を定量する生体近赤外測定システムを開発した。これを用いて、一酸化窒素ヘモグロビン(HbNO)を定量することに成功した。この生体近赤外分光システムを生体NMR装置に組込み、酸素代謝とエネルギー代謝を同時に非侵襲的に調べる装置を開発した。その特徴は無侵襲であるため同一個体を繰返し測定出来ることである。これを酸素濃度5%の低酸素雰囲気中のジャービル(砂ネズミ)頭部に適用し、吸気酸素濃度の変化に伴う近赤外スペクトル及びNMRスペクトルの変化を観察した。その結果、成熟ジャービルにとってはこの低酸素負荷は重篤で、低酸素曝露の直後からHbNOが増加し、およそ10分ぐらいで飽和に達するが、幼若ジャービルにとってはそれ程重篤ではなくHbNOは増加しないことが分かった。この成熟ジャービル頭部に低酸素によって産生されるHbNOは一酸化窒素合成酵素(NOS)によって合成された一酸化窒素(NO)が血中ヘモグロビンと結合して出来た複合体である。NOSには血管内皮型(eNOS)、神経型(nNOS)、及び、誘導型(iNOS)の3種のアイソザイムが存在するが、iNOSは有意な活性が発現されるまでには刺激後数時間を要する。eNOSとnNOSは生体内に構成的に存在し、血圧調節、神経伝達等に恒常的に関与していることが知られている。しかし、これらによるNO産生量は少なく、iNOSによって炎症時に産生される量の百分の一以下である。従って、低酸素負荷時に、頭部に急激、かつ、大量に産生されるNOがいずれのアイソザイムによるのかは不明である。そこで、NOSの阻害剤等を用いてこの点を検討した。その結果、まず第一にiNOSの関与は無い事が明らかになった。さらに、NO産生にはnNOSが関与しているが、これのみではなく、eNOSの関与もある事が示唆された。
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